電動車いすでお散歩
電動車いすで歩道を進んでいく。店やビルが流れていく。長町南(仙台市)の大通りを、多くの車が行き交っていた。けやき並木の若葉がきらめいている。上着は着せてもらわず、ポロシャツのままだった。このところからすれば、外は肌寒いかと思ったものの、吹いてくる風も温かで、汗ばむぐらいだった。
青い空に、雲がゆっくり流れる。気温は二十三度ぐらいはなっていたろう。すれ違う人の服装も、半袖やスカートが多かった。街路樹の影で電動車いすをとめ、ひと息つく。
──あぁ、初夏だ…。
この長町南の地域で、ぼくは暮らす。運動神経に関わる障害があり、手足があまりいうこときかない。舌がもつれ、言葉がはっきりしない。二、三時間おきにヘルパーさんがアパートにみえる。その訪問介護サービスを継続して受けるための手続きが年に一度あり、その用で区役所へ向かっていたのだった。
昼前みえていたヘルパーさんが帰る十二時半ごろ、玄関から外の電動車いすへ乗り移らせてもらった。手が利かなくても連絡が受けられるよう、携帯電話にヘッドホンマイクをつなげ、耳へセットしてもらう。介助をしてくれていたのは、四十代の小太りの主婦のヘルパーさんだった。
「それじゃ、尾崎さん、気をつけて…」
にっこりうなずいて、玄関前で別れた。
次にヘルパーさんがみえるのは午後二時半だから、それまでに戻ってこれば、中へ入れてもらえる。
区役所までは、安全な道を通って十二、三分だろうか。
ときたまテレビをつけると、東京スカイツリーが完成し、それで盛りあがっている。エレベーターも高速で、すぐに上がれるという。
「いちど、のぼってみるといいですよ」
よく言われるけれど、想像しただけで、身がすくむ。そのたび、
「え、えんりょしときます」
要するに、行き交う車よりも、高いところが、ぼくにとってはこわいのだった。いずれにせよ、田んぼのわきは通らねばならないので、落下防止柵のある道を選び、そこはおそるおそる進む。
区役所に着き、エレベーターのボタンをひじで、ふるえながら押す。二、三度関係ないところへかってに動き、ひじをぶつけてしまったが、ようやくボタンに命中した。
三階で降りる。担当窓口へ進む。
「あのう、介護サービスの書類、代筆で書いてもらったんですけど、わからないところがあるので、みていただけますか」
「かしこまりました」
電動車いすのわきのポケットから出してもらう。職員さんはそれを机において、記載もれがないかひととおりチェックし、
「これでだいじょぶですね」
おわったぁ。ほっとして、職員さんに礼を言い、区役所の建物を出る。
──案外、早かった…。
次のヘルパーさんがアパートにみえるまでは時間があった。ぶらぶらすることにした。
ザ・モール仙台長町というショッピングセンターがそばにある。そこでファッション売り場を眺めて回った。半袖のTシャツや夏服だった。この時季、あたりまえか。夏物はじゅうぶんにある。買わずに眺めるだけで、そこを離れた。
帰り道、横断歩道の前でとまる。
「おひとりで、だいじょぶですか」
ふり向くと、六十年配の女の人が、やさしい笑みをたたえていた。うなずいて、
「あ…、ありがとうございます。ぼくはだいじょうぶです」
「そうですか。お気をつけて」
街を行けば、心ない言葉も、耳に入ってくる。若いころは、いちいち気にしていたけれど、年を重ね、少しは面の皮も厚くなってきた。
──まあ、こんなもんさ。
その反動なのだろう。たまにいい人に出会うと、優しさが身にしみる。気を張っていたのがほどけてくる。元気がもらえる。
信号が青になった。ご婦人さんは会釈し、別れていった。ぼくも横断歩道を渡る。
長町南の大通りは、けやき並木が続いていた。梢のあたりに、小鳥が何羽かいるようだ。響いてくるさえずりが心地よかった。歩道のわきへ寄って目をとじ、しばし耳を澄ます…。



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